The Future of Making Things

これからの工作機械業界と
AIエンジニアの幸福な関係

井上 真一

株式会社牧野フライス製作所 取締役社長

吉崎 亮介

株式会社キカガク 代表取締役社長

#1
2session
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職人とAIの
ヒューマン・イン・ザ・ループ

多様性が
イノベーションの源泉となる

吉崎:
私は、実は工作機械のメーカーとAIを専門とするエンジニアとの相性はとてもいいと感じているんです。AIを学ぶ情報系の学生はそもそもドメイン知識として機械にあまり強くないので、これまでは入りにくかったところがありました。しかし、IoTが出てきたおかげで、それがデータで議論できるようになってきたので、むしろAIを学ぶ学生にとっての戦場にもなってきたと感じています。
井上:
ええ、いままでは工作機械には機械出身の人間でなくてはという考え方がありました。でも、これからはいろいろな専門分野の人たちが入ってきて、化学反応を起こして、新しいアイディアや新しい解決方法が生まれてくる。そういう時代になってきています。多様性を持った人たちの集まりが、次々と生まれてくるイノベーションの源泉になるのではないかと思います。
吉崎:
機械系の方もそうですし、AIを含めた情報系の方も両者でやっと手を取り合える状況になってきました。
そういう意味でいうと多様性というのは、すごく受け入れられる環境ですね。
ただ、いまのAI系の方々の就職状況なんですが、AIをこれからやっていきたい方が面接を受けても、経験がないという理由でなかなかOKを出せない現状があります。この問題を解決しないと、次の代のAI人材が育ちません。そこで、我々キカガクの中でAIを人に教えながら学んでもらい、成長した頃に彼らにAIに実際に取り組める環境の会社に入って頂くことが、社会課題の解決につながるのではないかと思っています。
井上:
なるほど、そこは確かに大きな問題ですね。これからAIを勉強したいという人を積極的に受け入れて、その人たちにどんどんチャンスを与えたり、教育の機会を差し上げたりして未来を作っていくということがすごく大事なのかもしれないですね。
吉崎:
実際、AIエンジニアは不足していますし。
井上:
そうですね。会社としては、すぐにAIエンジニアが欲しい。ただ、なによりも大切なのは、やはり最初は情熱なので。なんとかしたいとか、こんなことにチャンレンジしたいというような。言われたことをソツなくこなすのではなくて、こういうことをやってみたいという情熱がなによりも大事なのかもしれません。
吉崎:
AIはまだこれから勉強するんですけれども、「課題は私が解決します!」くらいの手を挙げていただくような情熱ですね。あと、AIを学んでいる学生はデータ解析を学ぶことで、会社でどう役に立つかをまだ学校の中でもなかなか見つけられずに終わってしまっているケースが多いので、ぜひそういう方には、「こういう課題を解決するためにあなたの知識が役に立ちます、だからこそあなたにはフィールドと課題が必要です」ということを積極的に訴えかけていただきたいです。
井上:
なるほど、ぜひそうします。そのほかに求めているものは何かありますか。

一子相伝の職人技を
教師データに

吉崎:
特にAIエンジニアの興味として大きなことが、教師データの有無です。これがないと始められません。AIと一言で言っても、AIの中には「学習」と「推論」という2つのフェーズがありまして。その「学習」のフェーズでは答えと質問の両方を用意してあげて、質問に対しては、どう答えるかを明確にする必要があります。
例えば「この写真は佐藤さんです」「鈴木さんです」というふうに、学ばせていく必要があります。その時に当然、「この人は佐藤さんです」という答えが必要なんですが、この答えのことを教師データと呼びます。多くの企業の方は「データはあります」ということで、とりあえず残したデータはありますが、それを何に使うかという答え(教師データ)が残っていないケースが多いのです。それで、結局、AIには使えないデータになってしまうのです。
井上:
データの集め方、質の問題ですね。
吉崎:
はい。この教師データをうまく集める方法としては、人間の動作がヒントになります。つまり、職人さんがいらっしゃることが、教師データを集める絶好の機会であり、ここがAIと製造業の相性のいいところかなと思っています。工作機械の中で「こうしていくといい」などの職人技が定量評価できると、AIエンジニアにとっての大きな魅力となると思うのですが、実際にそういう教師データが溜まる環境というのはありますか?
井上:
そうですね、私たちの会社ではまさにAIに必要なデータを集め始めた真っ最中です。データを取ると言っても高品質なデータを取らないと再利用がなかなか難しくて、ただデータをやみくもに取るというのだと、処理の効率がなかなか上がらないのです。どんなデータを取るのか、どんな形にするのか、それが再利用可能な形態はどんなデータなのかと議論しています。高品質なデータを定義して、その高品質なデータをどう取るかを考える、そういう取り組みを進めているところです。
私たち製造業では、その職人さんたちのノウハウやスキルは一子相伝の技術になっていまして、要するに先輩から後輩へ、徒弟制度のように受け継いでいくものです。ですから、すごく価値があって、他の人ではそう簡単には学べないものなんですね。
吉崎:
実際、私自身も職人さんの横で、どういうふうに仕事をされるのかを見たことがあるのですが、横で聞いていると、「ここはこうで、あそこはこうで」と、そこに意外にロジックが存在しているんです。AIエンジニアがそこを落とし込む翻訳のお手伝いをすると、いいシナジーが生まれる気がします。そうすれば、職人さんもまた一段階上のことに専念できますし。
井上:
おっしゃる通りで、多分90何%くらいはロジックだと思うんです。それを落とし込むこともできる。でも、ちゃんと聞きとってあげないと職人さんたちは上手にロジックを語るのがあまり得意ではなかったり、あえて語らないという方々が多いんですね。
「それはお前、肌で覚えるんだよ」(笑)そう言う世界ですから。「AがBだったらCにして、それからDにして、Eをアウトプットするんだよ」という言い方はしない。まずはそこに立って俺のやり方を見ていろ、見て覚えろという人たちの世界なので。それを、今後は少しサイエンティフィックな方法に変えていかないといけないかもしれませんね。これからは人も減ってくるし、長い時間をかけてスキルを受け継いでいくというのはなかなか難しくなっている状態だと思います。そういう中で、職人さんたちの技をどう定量化しデータ化して、それが「教師データ」としてAIで学習できるような状態にするか。つまり高品質なデータに変えていくかが、いま、もっとも大事なテーマです。
吉崎:
もしかするとコミュニケーションのところで、文化の違いが露わになるかもしれないですね。AIエンジニアはどちらかというと、ロジックを提示して欲しいといつも思っていて、そこは職人もAIエンジニアもお互いが歩み寄る必要がある。ですが、それこそが多様性で、そういった「文化の違い」という意味の多様性を受け入れられると、さらに会社としては強くなると思います。

ヒューマン・イン・ザ・ループで、
より高品質な工作機械をつくる

吉崎:
先ほどのお話に出ていた、AIによる推論の精度が100%ではないというところもポイントだと思います。つまり、常にAIから出てくる答えがあっているとは限らないということです。人間と同じくAIも間違えます。では、AIが間違えたときに起きる問題をどうやって解決するかです。
AI界隈では、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」と呼ばれることがあるのですが、やっぱり人間が関与してカバーする必要があります。だから、最後の最後のポイントは職人さんに頼らざるを得ないですし、そこが高品質を保証するということにもなります。ただし、職人さんの仕事の途中は効率化されるため、より多くの仕事に携われます。
井上:
いや、まったく同感ですね。私たちの世界でも"マザーマシンのプリンシパル"というものがあって、日本語では"母性の原理"と言うんですが、工作機械はマザーマシンと言われている機械で部品を作るんですね。そしてその部品を組み上げて子どもの工作機械を作るのですが、その組み上がった子どもの工作機械はマザーマシンの精度を絶対に上回ることはできないという、そういう原理原則があるんです。それを私たちは、マザーマシンを乗り越える子どもの機械を作ろうとしています。そこには先ほど「ヒューマン・イン・ザ・ループ」とおっしゃられていましたけれど、最後に乗り越えるために、人間の力が必要なんですね。人間こそが、高い品質を担保するということですね。
吉崎:
AIによって人を代替するという話も出ているかもしれませんが、そうではなくて、AIである程度自動化することで職人さんを楽にしてあげて、かつ高い品質を最後に担保しなければならない仕事に専念できる環境を作ること。まさに「ヒューマン・イン・ザ・ループ」がすごくいいのではないかと思います。
井上:
そうですね。AIは決して人間と敵対するものではなくて、人間と親密になって、より良い世界を作り出すことができる、そういう技術ではないかと思っています。やはりAIというと、一部の人はすごく怖がってしまうことが多いんですよね。自分たちの働く場所がなくなっちゃうんじゃないか、機械に取って代わられてしまうんじゃないかとか。そうではなくて、私たちの会社にいる機械作りのプロとAIを考えるプロたちが一緒にものを考えることで、新しい世界が生まれてくるのではないかなと思っています。そして、より人間にとっていい環境や、暮らしやすい幸せな世界が作り出せる、そういう使い方ができると私は信じています。

session3に続く。

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