The Future of Making Things

これからの工作機械業界と
AIエンジニアの幸福な関係

井上 真一

株式会社牧野フライス製作所 取締役社長

吉崎 亮介

株式会社キカガク 代表取締役社長

#1
3session
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工作機械とAI/IoTで
サスティナブルな未来をつくる

プロとして働いてもらう環境に気を配ることの大切さ

井上:
吉崎さんは東京大学などの大学でもAIを教えていらっしゃいますよね?学生さんや若いエンジニアが、どのような会社で働きたいと思っているのでしょうか。
吉崎:
やりがいといった当たり前の点を除くと、少し極端な例かも知れませんが、働く環境にこだわってくれる会社に魅力を感じると思います。特に、私がそうでした。例えば、椅子とPCなんです。最近IT系ベンチャーのソフトウェア会社で、採用の際に打ち出しているのが「椅子とPCはあなたの好きなものを買っていいですよ。セカンドディスプレーも好きに選んでいいですよ」と。キカガクもそういう環境を揃えています。実際にとても喜んでもらえますね。
井上:
そうなんですか?自由に選んでいいようにするんですね。
吉崎:
はい。例えば、野球などのスポーツで考えるとわかりやすいですが、チームから支給されたグローブやバットを使っているプロの選手はおらず、自分たちの気に入ったアイテムを使っているはずです。ところが、企業では PC を支給することが多く、同じプロとして仕事してもらうことに対する違和感を感じないでしょうか。選べるという一事象というよりも、プロとして働いてもらう環境に気を配っているかが大事だと思います。
井上:
それはいいアドバイスを頂きました。
吉崎:
もう一つは、エンジニア出身の社長の会社も魅力のひとつだと思います。なぜかと言うと、データ解析では結果が出るまで「情報の整理」とか「課題のヒアリング」に大半の時間を費やします。泥臭い工程が8割、きれいな工程2割と言われていて、報告できることが残りの2割しかない。1ヶ月のプロジェクトで半分時間が経過した段階で報告を求められても、まだ8割の泥臭い部分だったりする。それなのに、「まだ結果出ないの?」とか言われてしまうと、データ解析をする人の立場にしてみれば「ありえない」と言う話になるんです。その点、エンジニア社長の場合だと実体験としてある程度の工程が分かっているので、「そうだよね、ここ辛かったよね。」と共感してもらえて、モチベーションを維持できる。かつ、アドバイスをもらえて適切にマネージメントをしてもらえるので、そういった会社に人気があるのは当然です。結果主義か、プロセス主義かですね。結果もそうですが、そのプロセスを、うまくいかないことも許容できるかできないかが大きい気がしているんです。
井上:
よく分かります。
吉崎:
井上さんとお話しをしていて「あ、すごく牧野フライスはいいな」と感じたところは、問題設定に対して社長が、実際にエンジニアに分かる言葉でお話しをされている。先程の組み合わせ最適化の話しなども。AIエンジニアにとって働くと楽しそうですし、具体的に経営陣の方に分かって頂けるんだな、と感じます。
井上:
いや、社長になって初めて褒められました(笑)。いつも、もっと誰にでもわかる言葉に置き換えて、易しくしゃべるのが大事だと言われていましたから。

まずはプロトタイプを
見てみたい

吉崎:
井上さんから見て、経営陣は入社したAIエンジニアにどんなことを求めていますか?
井上:
経営サイドにAIの力をきちんとPRできる能力が必要だと思っています。
例えばAIの技術者だったら、我々の経営陣にインパクトを与えるようなプレゼンがどんなものかというと... お客様がこんなパーツを削りたいと言っています。どうやったらいいでしょうかというのを、機械がお客様に3つ選択肢をアドバイスしてくれる。過去にお客様が削ったデータがお客様のデータベースの中に蓄積されていて、過去に削った形状と、これから新しく削らなくてはならない形状のAIを使って形状の一致度を測る。そしてその一致度の高いものをリストアップしてきて、その過去に使った形状に付いている生産情報を展開して、「こうしたらいかがでしょうか」と提案してくるという。そんなものができたら…。
吉崎:
すごいですね!
井上:
機械がお客様を助けるような、あるいはいろいろな選択肢を提案してくるような、そんな機械ができたらすごいなと。だからそういうことが例えば、私たちの既存の機械作りのプロとAIを考えるプロたちが一緒にものを考えると、新しい世界が生まれてくるのではないかなと思っています。
口で言っていてもダメなので、何らかのプロトタイプを作るとか、目に見える形にするというのがすごく大事なんですよね。私はそういう取り組みが欠かせないと思っています。
吉崎:
最近だと形状の最適化もかなりポイントになってきていますよね。既存の形がベストだと思っていたものでも、もっと軽く、もっと強度を高めて、しかも材料は減らせて、ということをAIで求め、3Dプリンターなどで実際に作ってみると、全く思ってもいなかったものが出てきたりします。AIというのは数値を入れて数値が出てくるだけなんですが、そこでは留まらずに、ユーザーの方たちが使うかたちまで落とし込んで、まだまだ粗くてもいいので、まずは動くものを作って欲しい、というリクエストですね。研究室ではコンピュータ上の数値と向き合いがちですが、牧野フライスでは実機が豊富にあるので、実務で活躍できるAIエンジニアが育ちやすい環境だと思います。だからこそ、実際に動くプロトタイプを作り上げられる人材を求めてらっしゃるのですね。
井上:
はい。1から10を目指して改善を重ねていくプロセスも大事ですが、企業が長く存続するためには0から1の、破壊的イノベーションが継続的に生まれてくる必要があります。
吉崎:
そう言う意味で言いますと、新規事業にチャレンジできる機会もまだまだありながら、既存事業にも解決できる課題がたくさんあって、そこにチャレンジできますし、この両軸があるんですね。
ほかに、今後に関して、井上さんが期待される、AIを使ってこんなことができればということがありましたら教えて下さい。

人が幸せになるための機械、
そしてAI/IoT

井上:
考えているのは、原点復帰ですね。
機械ってもともと「machine tools(マシン・ツールズ)」って書きますから、機械としての道具という本質があると思うんです。道具は人が使うものですから、人が中心にいなければいけない。
すると、イノベーションがどんなものか思考を巡らしていくと、"コグニティブ・コンシェルジュ"というテーマにいきつきます。つまり、AIがお客様の思考やプロセス作り、例えばどうやって加工したらいいかという問いに、アドバイスしてくれたり、いろいろな意味でサポートしてくれる。最後は人間が決断するんですが、そこのプロセスに至るまでのいろいろな支援をしてくれる、そんな機械や仕組みがあったらどうだろうと思うんです。
まるでホテルに行った時のように、お客様が「こんなレストランってこの辺にありますか」って言った時に、コンシェルジュの方が、「こういう道を行けばたどり着けますよ」というふうに教えて、「じゃ、予約をしましょうか」とか言ってくださいますよね。もしそんなことが、私たちの機械の世界でできたら、これはお客様がすごく喜ぶんじゃないかと思ったりします。
吉崎:
これからAIを使って、機械と人間との対話の部分がさらに発展してくるはずです。確かにそこが今後大きなキモになりそうですね。
井上:
機械を使うのが人だとすると、もっと人を中心にものを考えて、人がより幸せになったり、いい働き方ができるようになるためにはどうしたらいいのかなと。そこに、AI/IoTを使えたらいいと思いますね。
吉崎:
私の会社は教育の会社なので、AIを学ぶ方々が成長した先で彼らにどうなって欲しいかを、いつも考えているんです。井上さんは、これから目指す未来、その先にある幸福というものを、どのように考えていますか?ぜひ教えてください。
井上:
私の中には、重要なテーマとして「サスティナビリティ」というのがありまして、持続可能性のある社会を実現したいと考えています。私たちは、製造業に直接インパクトできるような事業を営んでいます。物理的な世界では製造業というのは大きいですから、そこに直接働きかけて、私たちが提供させていただく機械がよりエネルギー消費が小さくて生産性が高いもの。そしてその生産システムは全体のボトルネックを改善し、スループットを引き上げてエネルギー消費を小さくして、小さなスペースで目的の生産が進む。残りのスペースはできるだけ緑にしてもらって、いい環境を作っていこう。そして温暖化をできるだけ抑えて、次の世代へよりよい地球環境を受け渡していきたい。それが、私たちが本当に目指したい未来です。そこに対してブレイクダウンしていくと、いま何をやるべきかがいろいろ見えてきます。
吉崎:
こういう世界を作りたいという井上さんのビジョンのもとで働くのは個人的に、社員の幸せの一つだと思いますし、私の経験上、社長のビジョンに共感できる会社を学生には選んでほしいです。
私の会社はいま3期目になり、いまでこそビジョンが決まりましたが、まだまだどうしていいか分からない試行錯誤の段階では、社員もどっちを向いていいか分からない。そのまま進むとどんどんブレていってしまうところがありました。そんな中でビジョンを見つけて、"感動的な学びを世界に届ける"と決めると、社員が一丸となって、幸せそうに働くようになったんです。
井上:
それは尊敬に値します。私も社長になって3年目で、3年をかけてようやくたどり着いた結論です。いまは、予測困難な時代だと言われています。だからこそ、未来がどうなるかではなくて、自分たちの考える望ましい未来というものを定義して、そこに向かってみんなで力を合わせて取り組んでいきたいと私は思っています。
吉崎:
異文化や異分野の多様な人財が集まっているけど、ビジョンは統一されている。
井上:
そうありたいですね。そして、みんな家族として繋がっていく、そんな会社を目指していきたいですね。
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