The Future of Making Things

アーティストと考える
工作機械の新たな姿

中谷 日出

アーティスト/元日本放送協会解説委員

井上 真一

株式会社牧野フライス製作所 取締役社長

戦後日本において、常に技術的な革新を重ねながら「ものづくり大国日本」の屋台骨を支えてきた工作機械。今、AI/IoT により製造業が大きく変革するなかで、工作機械もまた従来の延長線上に収まらない新たな姿を模索している。ロジックで「1を10に」積み上げるだけではなく、まったく新しい発想で「0から10」を生み出すことが求められていくだろう。そのときカギになりうるのが、人間の感性に根差した「デザイン」や「アート」の力だ。今回は、日々新しい発想を産み出し社会に発信し続けるアーティストの中谷日出さんをゲストに迎え、マキノのミライについてともに考えていく。

#2
1session
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ものづくりを取り巻く変化
AI/IoTで何が変わるか

なぜ今、
アートに学ぶのか?

中谷:
前回の対談を拝読しました。「企業が長く存続するためには、常に破壊的イノベーションというものが継続的に生まれてくる必要がある」という言葉が印象的でした。アーティスティックな表現だな、と。
井上:
ありがとうございます。前回もお話ししたのですが、多様性を持った人々との触れ合いが、イノベーションを生むと思っています。アーティストとしてご活躍の中谷さんとのお話しを通してさまざまな学びを得たいと、今日は楽しみにしています。
中谷:
僕は、NHKで解説員として文化・芸術・科学・ものづくりなど、国内外の様々な現場を取材し、テレビに出て、番組を作ってきました。グッドデザイン賞の審査員も20数年やっていまして、工作機械も僕の範疇だった時期もあって、結構いろんな会社のものを拝見して日本のものづくりの強みを感じてきました。
井上:
そうですね。ただ、最近は日本のもの作りが弱くなって、いろんな意味で元気がなくなってきています。牧野グループのシェアも75パーセントが海外を占めています。この間も北京で工作機械の見本市がありましたが、中国勢のレベルも上がってきているし、韓国や台湾はもともと技術水準が高い。「日本の工作機械と彼らの機械との間に何の違いがあるのか?」という問いに答えを窮する状況にあります。それでも、グローバルリーダーとして日本企業が活躍できる機会はまだまだあると思っています。

中谷 日出(なかや ひで)アーティスト/元日本放送協会(NHK)解説委員

1955年、神奈川県生まれ。
東京芸術大学大学院美術研究科修了。広告代理店のプランニング・アートディレクターとして活動後、1991年にNHKに入局。1994年にはマサチューセッツ工科大学MITメディアラボに派遣、その後NHKスペシャル「人体・脳と心」のアートディレクション、NHKロゴマークをデザインするなどブランディングでNHKの革新を牽引。また、解説委員(社会・科学・文化・芸術担当)としても活躍。芸術文化・ITなど多方面で縦横無尽に活動する傍ら、アーティストとして最先端のアート「映像絵画」を生み出す。2018年末、NHKを退局。グッドデザイン賞選定委員。内閣府サイバーセキュリティーセンター普及促進委員会委員。

中谷:
どのような部分に可能性を感じているのですか?
井上:
私たちが考えているのは、「もっと人を中心に据えたものの考え方をしよう」ということです。私たちの商品やサービスがたくさん売れると言うことは、私たちの考え方に同調して下さるということです。何かそこにシナリオみたいなものがないと、お客様に同調して頂くことができない。人間が人間に同調するのですから、そのためには人間を中心に据えた考え方をしないとビジネスの差別化が図れません。
中谷:
テレビ番組なんて同調の塊です。視聴者がいかにイイかも、新しいかもと思って頂けるか、という。
井上:
機械はソリューションでロジックをとことん突き詰めたものですが、私はロジックだけを求めた機械作りには限界を感じているのです。アートはロジックで飽和した考えを、飛躍させる何かを秘めているのではないかと考えています。
そう思うようになったのは、社長になってからで、ロジックだけで人の心を動かすことはできないということに気付き始めたからです。
中谷:
僕は「人の心を動かすもの」と言えば、“ナラティブ”だと思ってます。ユーザー目線で語られるストーリーのことです。欧米の企業は、そういうストーリーをつくるのが非常にうまい。パソコンやインターネット、スマートフォンが広がったのも、もちろん利便性もあるでしょうが、マイクロソフトやアップル、グーグルなどの企業が「個人の力をエンパワーメントする」というストーリーを語った影響も大きいでしょう。
井上:
そういったストーリーも一種のアートですね。それから美しい形や情緒、敬虔な心、そういうものがないと同調が得られないんです。同調の先に、問題の提起やソリューションの創出、プロトタイプの製作や試運転という流れができるんです。そうすると最初のポイントが「アート」や「心」になります。この部分を大切にすれば、もっと特別なもの、日本らしいもの、日本らしいビジネスとその先が見えてくると思います。

「インダストリー4.0」の本質とは

中谷:
昨今注目されている「インダストリー4.0」も、ものづくり大国のひとつであるドイツが競争力を維持するために打ち立てたひとつのストーリーと見ることができます。
「インダストリー4.0」で、工作機械業界はどのように変化するのでしょうか?
井上:
私の持論では、単純にIoTとかAIとかそういうことではなく、本質的な恐ろしさは「純粋機械化経済」へのシフトだと思うんです。私が肌身で感じるのは、インダストリー4.0が進むと、工場の現場で今までいろんなマニュアルでやっていた作業が機械に置き換えられてくる。AIとかIoTなどのインフラが整ってくると、機械の方が賢くなってくるんですよね。今までAIも仮想空間のコンピューターワールドの中にいたものが、機械の体を持って現実の世界に現れてくると、それがものすごいインパクトを物理的な世界に及ぼし始めます。そういうものが群的な制御で動き始めると、あたかも生き物のように工場の中で動き始めてしまう。
そして驚くことに、機械は人間とのコラボレイティブで、協働をしはじめます。
中谷:
そのとき、人と機械の関わり方はどう変わりますか?
井上:
それまで硬いイメージで、人間とは全く違う存在だった機械が、人間のすぐ近くで友達のようにコミュニケーションを取る存在になっていきます。そして、機械は人間の創造性を支援する存在になり、人と機械の関わり方がより高次になっていくと考えています。
機械たちがそれぞれにまず脳のシナプスのようにネットワークでつながっていて、それらが稼働しながら、どこにボトルネックがあるかを調べて、そこから全体的に最適化されるような非常に有機的な生産システムがつくられている...。それが私たちの考えるインダストリー4.0の効果です。そういうものを誰かが私たちより早く提案してくると、それは脅威ですね。ですから誰よりも先にこのビジョンを打ち出し、取り組みたいと考えています。
中谷:
なるほど。僕がこのインダストリー4.0の領域の中で一番重要なのは、それをシミュレーションすることだと思っています。僕らは“メタバース”という言い方をしていますが、それぞれの企業が、自らの仮想空間の中で事前にシミュレーションしていくことが、ポイントになってきています。井上さんがおっしゃった脅威に対するアプローチの第一歩は、そこから始まるのではないかと思っているんですよね。

仮想空間と物理空間
の相互作用

井上:
中谷さんがおっしゃるメタバースについて、もう少し詳しく教えて頂けますか?
中谷:
メタバースとは、「現実世界の上に築かれた仮想世界」という概念です。1992年に発表されたSF小説『スノウ・クラッシュ』(ニール・スティーブンソン)の作中で登場する言葉です。企業は仮想世界を構築することにより、そこでいろいろなプロトタイプをつくり、シミュレーションができる。私はこのシミュレーション機能を備えた場を「メタバース」と呼んでいます。現実世界では、やってみたけどだめだったというのはゆるされない。シミュレーションによって、コストやリスクを最小化することができますよね。
当然、メタバースの中には過去の製造データがアーカイブとして保存されていて、さまざまな情報資産をちゃんと整理しておけるようになる。これから先、メタバースの世界が広がって展開した時に、マキノさんの仮想空間は、情報発信の場や、他社との関係性構築の場にもなり得ます。そういう「見える化」がこれからの企業には必要ではないかと思っているのです。
井上:
今のお話しは、目から鱗です。実は、私たちの間では「デジタル・ツイン」という言葉があります。仮想空間に工場を作り、生産システムのシミュレーションを行なうことです。デジタル空間に物理空間の双子(ツイン)を作るわけです。現実の世界でシミュレーションするとお金も時間もかかり、効率が悪くなるので、仮想の世界で思う存分行うのです。
でも、メタバースの概念はさらにその発想を広げるものですね、驚きました。
中谷:
ここ数年、VR(仮想現実)の発展により、VRでメタバースを体験するという人も多くなっています。海外の企業では、職業訓練の現場にシミュレーションやVRを導入した「シリアスゲーム」という手法も広がっています。消防士や介護士など、人の命に関わる職業で、深刻な場面でどう振る舞うべきかを訓練しています。
井上:
それも興味深いですね。
中谷:
例えば、マキノさんを引退されて高齢になった方でも、ものすごい知見や能力を持った方がいると、その方たちがネットワーク上で若い従業員のサポートをするような時代がやってくると思います。
井上:
OBの人たちのアバターに、従業員のアバターが教わるという時代が来ると!
中谷:
はい。今までは画面上だったコミュニケーションが、実際にそこで出会って体験できる。今若者の間で、バーチャルの間で会うことを体験と言うらしいです。ちょっと我々の感覚とは違うのですが、実際に仮想社会で出会ってOBに色々とスキルを教わるようなことは、当然ありうる。ぜひそう言うことに興味を持って頂くと良いかなと。

session2に続く。

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