The Future of Making Things

アーティストと考える
工作機械の新たな姿

井上 真一

株式会社牧野フライス製作所 取締役社長

中谷 日出

アーティスト/元日本放送協会解説委員

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2session
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「モノ」から「コト」へ――
変わりゆく工作機械

ものづくりを変える
デジタルファブリケーションの波

中谷:
もう一つ、ものづくりにまつわる変化として、3Dプリンタ(積層造形)や3Dスキャナなどを使ったデジタルファブリケーションの波も押し寄せていますね。従来の製造技術では原理的に作成困難な形を作り出したり、技術が変わることで、これまでものづくりに携わっていなかった人たちが新たにものづくりを始めたり・・・。工作機械メーカーとして、こういった変化をどのように捉えていますか?
井上:
大きなチャンスだと思っています。理由は当社の成り立ちにあります。日本に工作機械メーカーが100社ほどあるなかで、当社はマシニングセンタにほぼ特化した専業メーカーです。マシニングセンタとは、切削加工の複合機のようなもので、業界のなかではニッチ(隙間)なポジションと言えます。このポジションは、業界内での競争のなかで、自社の強みを活かせる分野を探してたどり着いた結果です。社会や産業構造が変化すると、新たなニッチが生まれます。そのなかに、当社の強みを活かせる分野があるはずです。
中谷:
デジタルファブリケーションを取り入れて、チャンスに変えようというのですね。
井上:
はい。特に3Dプリンタが優れているのは、思い描いたイメージをその場ですぐに形にできることです。最近、歯医者に行った時に、こんなことを感じました。たとえば、歯を抜いたら変わりに義歯を入れますよね。歯科医はインプラントを勧める場合がありますが、1本の値段が60万~100万円はかかります。作ってみるまでどういう形になるのか分からないものに、これだけの金額を出すのはためらう人もいると思います。こういうときに、その場で3Dスキャナと3Dプリンタを使い、新しい歯を目の前で再現してくれたら、イメージがありありと湧いてきます。
中谷:
目の前でモノができていく様子を見られるのが面白い。プロセスそのものがアートですよね。そんなワクワクする体験にこそ価値があります。
井上:
カウンターキッチンやバーカウンターで、シェフやバーテンダーがつくっている様子を見るのって楽しいですよね。私たちは、お客様のニーズを聞きながら工作機械をつくっています。その設計のプロセスのなかで、プロトタイプをつくる過程をもお客様と共有できたら、さらに新たなアイデアも生まれてくると思います。

これまでは、
人が加工できることが前提でした

中谷:
僕は京都大学で教えながら、さまざまな産業のアドバイスも行っているのですが、京都の和菓子屋さんからの相談を受け、3Dプリンタで和菓子の試作品を作ったことがあります。和菓子をもっとイノベーティブにできないかと言われたので、じゃあ3Dプリンタで作りましょう、と。出来上がると、これは職人には絶対できない形だと言われました。それがものすごいなって思ったんですが、まだたくさん、3Dプリンタの魅力って数え切れないほどあると思います。
井上:
同感です。新しい製造法ができてくると、デザインそのもののあり方も変わりますね。
中谷:
機械の姿は、どんな風に変わっていくのでしょうか?
井上:
私は、これからの機械のデザインのヒントは生体にあるように思います。こうした考えは「バイオニックデザイン」と呼ばれています。生物の形態は、長い進化史のなかで最適化されてきたはずです。たとえば、人間の骨はしなやかで強いですよね。丈夫なだけでなく軽い。骨の中は蜂の巣のように空洞で、骨の壁の厚さは硬く密にできています。実によくできた構造です。ロボットのアームを骨のような素材で作れるようになれば、強度は増し軽量化も図れます。強くて軽いというのは、機械の理想形態です。
中谷:
今までは、できなかった。
井上:
はい。なぜ機械に適応できなかったかというと、加工ができなかったからです。今までの部品のデザインは、人が加工できることを前提にしているんですね。ですが、3Dプリンタの出現によって、生体のような理にかなったデザインが可能になるのではないかと思っています。
中谷:
これまで全く考えられなかったデザインが生まれてくる、ということなんですよね。
お客様の思考も、これまでになかったような「モノ」を求めるようになってくる。そのニーズに向き合うことで、新たな工作機械の可能性が広がってきますね。
井上:
さらに素材についての世の中の変化もあります。「ニア・ネット・シェイプ」で、削る量が減ってくるんですよね。これは、最終形態に近い形状で部品を成型することを言いますが、加工で切ったり削ったりするプロセスを大幅に減らせるので、省資源や廃棄物削減にもなりサスティナブルな社会を目指す社会の潮流にもあっています。
とはいえ、機械をワンパーツだけでつくるのは難しいですから、複数の部品を組み合わせる以上、接合部が必要です。つまり、複雑な形状をした部品の接合部に、ボルトの穴を開けるような加工が発生します。そこに新たな加工プロセスが生まれる。機械が今までのような剛性のあるガッチリとした巨大な機械である必要はなくて、全く形態の違う、新しい機械が必要になるはずです。そこに大きなチャンスがあると思っています。
中谷:
これだけ、ものづくりの自由度が高まってくると、今後「どうデザインするか」は、ますます重要になりますね。

「工作機械を作ること」をデザインする

井上:
中谷さんはグッドデザイン賞の審査を長年やっておられますよね。今まで数多くのデザインをご覧になって、どのような変化を感じておられますか?
中谷:
昔は「モノ」を美しくデザインするのがものづくりのデザインの基本でしたが、今は「コト」のデザインに移りつつあります。
井上:
ことをデザインする?
中谷:
マキノさんで申し上げると、「工作機械を作ること」、つまり「作るアプローチの仕方がデザインされること」が、今のデザインの領域の中では非常に重要になっています。
機械を使う人の視点で、そうした「コト」をつくり出していく。それが「コトづくり」です。
「人」によりフォーカスを当て、人がどのような仕事の仕方をして、どのような展開をしていくのかを含めて、デザインするのがとても重要な時代なのだと思います。
井上:
いま中谷さんからお話を伺って・・・反省をしています。私たちはこれまで「加工機」を作ってきました。でも実際には、お客様は加工機を使って生産のプロセス全体に携わっておられます。私たちのソリューションは、本当にごくごく一部のポイントであるのに、それで満足してしまって、お客様にどうですかと言っているんですけど、お客様の悩みは全体のプロセスを通してあるわけです。そういう意味から、私たちのこれからは、「生産システムを考える」こと。加工が中心にあるとしたら、その前行程と後工程を全部見て、プロセスを通した解決策をお客様に提供できるような、そんな会社になりたいです。
中谷:
素晴らしいビジョンですね。モノを使う人がどんな風に仕事を進め、つくられたモノはどう展開していくのか。「人を中心に据えたものづくり」には、「コトづくり」が不可欠です。 「モノ」にも「コト」にもますますデザインが重要な時代になってきています。この「人を中心に据えたものづくり」というのも、まさに「ナラティブ」ですね。たとえば、3Dプリンタを導入して製品開発に活かしていく時に、作る人が感動体験をするということも含めてデザインする。このようなストーリーを語る力は、未来を切り拓く大きな原動力になります。

session3に続く。

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