The Future of Making Things

アーティストと考える
工作機械の新たな姿

中谷 日出

アーティスト/元日本放送協会解説委員

井上 真一

株式会社牧野フライス製作所 取締役社長

#2
3session
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3session

工作機械を革新する
「アート」の力

マキノが若手に期待することは?

井上:
私は、若い人にこそ新しいことにチャレンジしてもらいたいと思っています。今までは年を取ってから自由度が高まって、権限を持って、新しいことに取り組むというのが企業のスタイルかもしれませんけど、私たちは新入社員の方々に、現在の発想力、考え方を持って、マキノの新しい未来を作ることにチャレンジしてもらいたいです。
中谷:
具体的には何か取り組まれているのですか?
井上:
毎年、新人で何かプロジェクトをやっていますね。一番難しい、新しいテーマをぽんっと与えます。例えば先程、仮想空間に現実世界のコピーをつくる「デジタル・ツイン」についてお話ししましたが、その取り組みの一環としてiAssistというロボットを試作し、現実と仮想空間をつなぐ試みを行っています。昨年11月のJIMTOFという国際工作機械見本市で発表したのですが、実はこのiAssistのデザインやソフトウェアを作った中心メンバーは、2018年度の新入社員6名です。
中谷:
ほお!新入社員が。そのiAssistというのはどういうロボットですか?
井上:
iAssistはAGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)という無人搬送車のひとつです。AGVの上にロボットアームを搭載し、工場内のピッキングと搬送を自動化することを目指しています。
従来型の一般的なAGVは、床面に張られた磁気テープなどで誘導を行い、無人で走行するものです。iAssistは、磁気テープの貼付などを必要としない自律的な移動が可能です。仮想空間上に作成した工場内の地図データをもとに、iAssistの底面にある2つのセンサーで周りの物体との距離を測定しながら現在位置を捉え、目的の棚や装置までの最適ルートを計算して工具やワークを搬送します。iAssist はルート上も常にセンサーでモニターしていて、眼の前に作業員が立ち入ったり障害物があったりした場合、その情報を仮想空間に投げ返します。すると、仮想空間で最適ルートを再検索します。
現実世界の工場には、さまざまな機械や測定器、工具の類いがあちこちに点在しています。今までは、それを人が見て判断してルートを設定していましたが、仮想空間に工場のツイン(双子)をつくり、現実とつないでルートを自動計算させることで人手がかからなくなります。そうすると、作業員が帰宅した夜間でも工場を稼働させることができます。
中谷:
それを新入社員に任せるとは、思い切りましたね。
井上:
もちろんベテラン社員もサポートしましたが、大変だったと思います。チームで力をあわせて、本当によく頑張ってくれました。AGVの本体カバーも3Dプリンタでデザインして、今までにない柔らかな曲線を描く有機的なものに仕上がりました。経験がないからこそ、新しいことに果敢にチャレンジができるのだと思っています。苦労も伴いますが、結果的にそれを乗り越え、成果として現れる。それが、若手のものすごく大きな自信とモチベーションになります。メンバーそれぞれが所属部署に戻ると、また新たな取り組みを始め、組織や会社を活性化していってくれます。若手のみなさんは、会社に変化をもたらす存在として期待しています。

iAssist :「INTERMOLD 2019(第30回金型加工技術展)/金型展2019」にて展示

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ナラティブを描き、
伝える力

中谷:
井上さんは、これからどのような人財を求められるのでしょうか?
井上:
機械とソフトウェアのエンジニアだけにとどまらず、それこそ、美術系を専攻していたような人にも仲間になってもらいたいです。その時には専門分野や役職など関係なく、テーマにエンゲージメントし、積極的に意見を述べている。そういう人たちの新しいワーキングスタイルがこれからのマキノの姿です。
そして私たちはその方々とビジネスをうまく回していける、そんな運営をしていきたい。つまり、多様性と統合という言葉は、相反しているんですけど、それをバランスさせながら会社が成り立っていくような、そんな組織を作っていきたいです。
中谷:
いろんな人財が集まるということは、マキノさんの中でいろんな化学反応が起こるということですから、それを聞いた学生たちはすごく楽しみに感じると思いますね。
井上:
これからマキノは、モノづくりだけでなくコトづくりにも取り組んでいきます。その土台には機械やソフトウェアがあり、AIやIoTの技術もこれからは欠かせません。それらが重要であることには変わりありませんが、そうした専門技術を持たなくとも、お客様と一緒にコトづくりができる発想力や共感力を持つ人財も重要になってきます。
中谷:
発想力は、「シナリオを作る力」とも言えます。ナラティブを描き伝える力を持った人財ということですね。
井上:
はい。中谷さんのお話しを伺ってきて、「ナラティブ」というのは大きなキーワードですね。未来を物語るシナリオを作れるのは、生まれつきの才能でしょうか?訓練でできるようになるものですか?
中谷:
訓練でできます。ブランディングのシナリオライティングは訓練です。
井上:
それは我々にも希望をもたらしてくださいますね!
中谷:
シナリオを作るための「発想法」というのが教育システムの中になかったんです。発想法なんて習っていない。僕も社会人になって初めて学びました。やはり若い時から発想法は教えた方がいいと思って、いま大学で教えています。
僕が教えているのは京都大学の「思修館」という大学院なんですけど、そこにはいろんなジャンルの人たちが学部から卒業して来ています。医学部、工学部、科学者もいる、哲学者もいる。彼らも、発想法を学ぶと、ものすごく面白いシナリオができるんです。

アートは
多様性をつなぎ合わせる核となる

井上:
私たちも、発想力を持つ人にできるだけ集まって頂きたいし、そういう人間で構成されている会社になりたいです。
中谷:
これからの時代、イノベーションを促進するため、アートやデザインを教育の中心に据えようという流れもあります。それが「STEAM(スティーム)」教育です。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(ものづくり)、Art(芸術)、Mathematics(数学)の5つの単語の頭文字を組み合わせた造語です。
井上:
Artが入るんですね!
中谷:
はい。僕が考えるSTEAMのポイントは、まさに「A」のArtの部分です。STEAMの源流は、2000年代初めにアメリカの教育界で提唱された「STEM(ステム)」にあります。このときはまだ「A」はありません。STEMは主に、理数系の科目と実学のスキル向上を目的とした教育アプローチです。その重要性が広く認識され、世界に広まりました。その流れを発展させる形で登場したのがSTEAMです。STEAMの「A」は広義のアートで、そこには狭義のアートやデザイン、人文学などを広く含みます。シナリオやナラティブも「A」に含まれます。
アートとサイエンス、テクノロジーは実は身近な存在ですが、特に、STEMの各分野をつなぐアートの力がこれからますます重要になってきます。
井上:
単一の考え方や発想に染まっている組織では、新しいことは生まれにくい。イノベーションは、異質なものどうしの掛け算で生まれてきます。アートの発想力は、それらをつなぎ合わせる核になるのではないかと、私も思います。
中谷:
今回の対談で、御社が実に先進的な取り組みをされていること、多様な人財を求めていることがよく分かりました。学生さんにも、御社の魅力が存分に伝わるのではないかと思います。
井上:
新しい方々が私たちの対談を観て下さって、自分もこの会社にはいれるかもしれないと、自分の分野からでも未来をデザインすることができるかもしれないという希望を持って頂けたら、それが本当にうれしいことです。
私にとっても、アーティストである中谷さんとの対談は、まさに異質なものとの触れ合いで、大きな刺激を受けました。この対談からさまざまなヒントを得て、新しい発想でチャレンジを続けていきたいと思います。
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