The Future of Making Things

ニューノーマル時代の
「工作機械と技術者」進化論

澤谷 由里子

名古屋商科大学 ビジネススクール教授

井上 真一

株式会社牧野フライス製作所 取締役社長

#3
2session
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「競争」から「共創」へ。
モノづくりの新たな挑戦

マキノが実現した
「共創」の形

井上:
最近、「ATHIUM(アシウム)」という軽量で剛い新素材を開発しました。これは「Alliance Tajima HInode Unite Makino」の頭文字をとったもので、田島軽金属さん、ヒノデホールディングスさん、そしてわれわれマキノを表しています。この3社で、まさに「共創」をしたわけです。このキッカケも面白くて、同年代のヒノデホールディングスの常務と意気投合して、何かいっしょにやろうという話になってはじまったんです。
澤谷:
新しいエコシステムのような形ですね。まるで遊びのような、ワクワクする外部との接触が全社員にまで広がってくると、企業はすごく変わると思いますよ。
井上:
私たちがやるべき共創は、異なった専門分野を持つ企業さんとお付き合いすることで、私たちだけではなしえない新しい価値をつくり出すことだと思っています。私たちは機械メーカーですから、素材に関してはほとんど素人です。ですから、力をお借りして新しい素材をつくり、その素材を材料にした新しい工作機械をつくりたいと思ったんです。その結果、生まれたのが「e・MACHINE」という工作機械です。「ATHIUM」を材料にすることで、機械の重量が減り、効率がよくなって生産性が上がり、お客さまのエネルギー消費も下がるという、画期的な機械なんです。この成功を足がかりにして、これからもどんどん「共創」にとり組んでいきたいと思っています。
e・MACHINE

「共創」を実現するアイデア共有システム

澤谷:
このように企業の中で新しいことをやり始めるには、それをうまく進めるシステムが社内にあるとすごくいいと思うんです。いま、企業ではCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)など、いろんな組織を中につくっています。そのとき社員がみずから自分で考えて動けるようになっているか。内発的動機がはたらくような仕組みづくりができているか。その点、以前の対談記事(中谷日出氏との対談)で、新入社員が協力してロボットをつくったというお話がありました。こういうことをされている企業であれば、十分にできていると思います。
井上:
でも、難しい部分もあるんです。マキノに求められるのは、機械の信頼性やお客さまの要望を間違いなくこなすという確実性です。ですが、それが重しとなることもあるんですね。それで新しいチャレンジや、若い人のアイデアを、組織的に抑え込もうとする力が働いてしまう。一方で、未来をつくっていくには、若い人たちに失敗してもいいから何か新しいことをやってもらいたいわけです。20代、30代前半は、いろんなことにチャレンジして、いっぱい失敗もして、40代からイノベーターになっていく。そういう企業であってほしい。となると、お客さまにご迷惑をおかけしない、高い品質の製品をつくることと、まったく見たこともないような機械や生産システムをつくること、それはかなり相反するんです。そのバランスをどう取るか、私たちに課せられた大きなテーマだと思います。
澤谷:
確かに難しいところですね。たいてい新しいアイデアというのは、マネージャーから見ると現状の事業とギャップがあり、危険なわけです。だからマネージャーとしては簡易には同意できず、そのアイデアは埋もれてしまう。新しいことにチャレンジするためには、失敗を許容する風土が必要です。例えば、うまくいかなかったということを発表する場をつくるというのがいいと思います。社内で失敗し、埋もれたアイデアを共有する機会をつくれば、他の部署の誰かが面白そうだと思って、そのアイデアに協力してくれるかもしれない。それをシステム的に行なう部門や、あるいは井上さんみずからうまくいかなかったアイデアの発表会を開くとか、そうすると新しいことをやる文化が根づくかもしれません。

挑戦をうながす
「未来のマキノ展」

井上:
新しいことへのチャレンジとビジネスの成長が同時にできる企業。そんな企業をつくることができたら理想的だと思います。それを実現するには仕掛けが必要だと考えまして、最近「未来のマキノ展」という試みを始めました。開発部や生産部はもちろん、総務部、人事部まで、さまざまな人たちが小さなブースを出し、自分たちが行なっているチャレンジを多くの方に見ていただくという取り組みです。
澤谷:
それは面白いですね。
井上:
これまでは自分たちのチャレンジが、他の社員や、OBのみなさん、家族のみなさんに対して公開されていなかったので、モチベーションや継続する力が生まれにくかった。でも、みなさんに見てもらって、「楽しかった」「ワクワクした」といった感想をいただくと、みんなやっぱり奮い立つんですよ。この「未来のマキノ展」が、理想的な企業になる、いいきっかけになるかもしれません。
澤谷:
「未来のマキノ展」に出展されたアイデアに、実際にOBの方に投資してもらうのもいいかもしれませんね。若い人たちが「どうしてもこれをやりたい」と思っていることを、OBが応援し、金銭的な援助も行なう。そんなエコシステムができると面白いですよ。
井上:
なるほど、それは面白いアイデアですね。マキノのOBはアントレプレナーシップ(起業家精神)がものすごく強い人たちの集まりですから、期待できそうです。
澤谷:
起業家理論の中では、エフェクチュエーション(優れた起業家に共通する思考プロセス・行動様式)という理論があるんですが、今のお話にマッチするなと思っています。「未来のマキノ展」は、私はこれをやりたいという自分の意思から始まると思うんです。自分のやりたいことがないと、支えようにも支えることができません。楽しんでいいんだ、ワクワクすることができるんだという環境の中で、各自、自分がやりたいことを持ち寄る。するとそこで、まず親しい仲間でいろんな議論しながら吟味して、プロトタイプをつくって、そののちに重要なステークホルダー、つまりお金を出してくれる人や実際に人を集めてくれる人にお願いしにいくわけです。お金を出してくれる人に提案する場合、その相手が社内だけだと実現が難しくなるのが普通です。でも、OBのネットワークや、あるいはお客さまへ広げていくことで、外部にサポーターが生まれるかもしれません「どうしてもこれをやりたい」という思いから始まって、どんどん仲間に巻き込んでいく。そして実際に、新規事業が立ち上がっていく。そんなしくみができてくるといいのかなと思いました。
井上:
今日は本当にいいアイデアをいただいています。
澤谷:
エコシステムをつくったり、支援者を得ていくというのは、まさにコ・クリエーション(共創)です。それに対してコンペティション(競争)は、相手を説得するやり方です。「自分のこのビジョンが唯一正しいので、あなたはこれに従ってください」と言うのか。それとも、「私はこれがしたいんだけど、あなたは何をしてくれますか?」と聞くのか。すごく違いますよね。それが、共創と競争の大きな違いなんです。

session3に続く。

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