The Future of Making Things

ニューノーマル時代の
「工作機械と技術者」進化論

井上 真一

株式会社牧野フライス製作所 取締役社長

澤谷 由里子

名古屋商科大学 ビジネススクール教授

#3
3session
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技術者進化論。
未来は技術者がつくる。

「違和感」がイノベーションの種になる

井上:
私はよく新人の方に、「“ここがヘンだよ牧野フライス”ってどんなところだと思う?」という質問を投げかけます。するとよく返ってくるのが、「うちの商品はすごく高価なのに、この見た目はないんじゃないの?」という答えなんです。言われてみると、何十年もお客さまの工場に居座るものですし、工場の顔になるような機械だとすると、見た目だってすごく重要な要素です。外観からにじみ出てくる機械のパフォーマンスや精度を、お客さまがお感じになることを、若い人たちは現場で気付くわけです。
このことが、対談の最初に言った「これからの時代の工作機械のあり方」に気付かせてくれました。機械を使うのが楽しみだとか、ワクワクするとか、誰かに自慢したくなるとか、そんな商品にしなくてはいけないなと思いました。若いみなさんには、私たちが見逃している違和感を感じる能力があります。一方、ベテランの方々からすると、コストが上がりがちになるので、反対する声も多い。でも、違和感をすくい上げて議論することが大切です。
澤谷:
そうですね。違和感は発想の出発点です。現場に行ってお客様と話す中での違和感も重要だと思います。現場に行くと御用聞きになりがちですが、技術を理解している人がお客様と一緒に議論して次の未来を作っていくという視点はまさにコ・クリエーション(共創)につながります。
井上:
ぜひ澤谷さんにお聞きしたいのですが、今は不確実性の高い、未来に何が起こるかわからない時代ですよね。実際、私たちも、売上の20パーセントをつくっていたビジネスが突然、コロナ禍の影響でゼロになってしまうということを経験しました。ここまでひどくなるとは正直、見通せませんでした。そんな暗い中を手さぐりで進んでいくような世の中で、新しいイノベーションを探していく取り組みをするには、企業はどうすればよいとお考えですか?
澤谷:
二つの方向性があると思います。一つは技術の方向性です。すでに取り組まれているように新しい素材から新しい工作機械をつくるという例がありましたが、技術によって新しいイノベーションを起こしていく。もう一つは人間の方向性です。現場に足を運べば、いろんなところに気配があるものです。そこでは技術者ならではの視点というものがすごく役に立つと思うんです。先ほどの「違和感」のような気配を感じ取ることで、新しいイノベーションを模索する。機械を使っている現場の方は、直近のことについては注目しますが、今後技術が進歩したり、素材が変わったりするとどんな未来が拓けるか、ということについては、そこまで考えていないかもしれない。そこを技術者が一緒に議論することで、お客さまと共創していく。それがまさに市場開発だろうし、起業家的な活動になるんだろうと思うんです。
でも、考えるだけだと何も起こりませんから、最後に残るのは実行だと思うんですね。技術のモニタリングと人のモニタリングをしながら、実際によさそうなアイデアを試して、たくさん失敗しながら学んでいく。
井上:
アイデアをまずプロトタイプにしてみることが重要ですね。
澤谷:
起業家の人からよく聞くのは、アイデアはいっぱい出てくる、でもそれをいかに実行まで持っていくか、それで成功するかどうかが決まるということです。アイデアを考えるよりも、実行することのほうが難しいんです。
では企業の場合はどうか、企業研究していると、出てきたアイデアを危険だと思って止めるのがマネージャーだとされています。マネージャーは決して悪いことをしているわけではなくて、健全に動いているとそうなるんです。
井上:
今の話はものすごく大事ですね。マネージャー、中間管理職も「起業家」に変えていかないと、組織全体が変わりません。中間管理職のみなさんも会社のためを思って動いてくれているわけですから、決して個人の問題ではない。ですから、われわれが率先してその善意のあり方、方向性を定義し直していけば、大きく会社が変わるかもしれません。
澤谷:
マネージャーの仕事って、そもそも何なのか。何をする人なのか。それをきちんと定義して、共有すべきだと思います。マネージャーの仕事は、人と人とをつなげること、部下のアイデアを育てること、今までになかったしくみをつくること。「会社人間」になるための教育ではなく、本来の意味でのマネージャーになるための教育をきちんとしていけば、井上さんがおっしゃるような起業家的なマネージャーが生まれると思います。

新たな市場は
起業家精神をもつ
技術者が作る

澤谷:
こんな話があります。スターバックスは、現在のトップであるハワード・シュルツ氏が入社した当時、コーヒー豆を販売する会社でした。やがて彼は、カフェ事業を立ち上げようとしますが、まわりの人たちはその当時のコーヒー豆売り上げ減少のデータを持ち出して「そんなの無理だ」と反対したそうです。でも、当時のスターバックスの社長は、「お金は出すからやってみなさい」とシュルツ氏の背中を押しました。それが現在のスターバックスの隆盛の始まりです。
多くの企業は、とにかく過去の情報を集めて、分析して、完璧な答えを用意したうえで、意思決定をします。業界が3年、5年先も変わらない場合はそのデータは有効かもしれない。でも、これまでにない市場がどんどん出てくる不確実性の高い時代には、過去のデータをいくら集めたところで、未来を見通すことはできないんです。未来は発見されるのではなく、創られる。その創られる未来は、分析時にはまだ存在していないからです。
井上:
澤谷さんのお言葉で感動したのは、データでは未来は見通せないということ。現在あるデータで予測できるのはちょっと先の内容だけで、未来において何が成功するかなんてわかりません。データよりも重要なのは、「どうしてもこれをやりたい」という強い情熱や、人を突き動かすワクワク感でしょう。それに共感し、共有したいという人たちの共創が新しい市場をつくり出していくのだと思います。
澤谷:
新しい市場をつくるのに向いているのは、どんな人なのか。それこそが、まさに技術者だと思うんです。市場は過去のデータから予測は難しいですが、比較的、技術進歩というのは予測がしやすい。たとえば特許を分析すれば、こんな特許がこんな形で出ているから、この分野がこれから来そうだとか、予測できるんです。なので、技術者が新しい技術をもとにして、未来図を想像して、新しい市場をつくり出すのは、やりやすいと思うのです。
井上:
まったく同感ですね。今ないものをつくって、みなさんにイノベーションを届けたり、パラダイムシフトになるような価値観を届けることは、マーケット・ディベロップメント、つまり市場を新しくつくり出すことだと思うんです。それができるのは誰かといえば、起業家だったり、クリエイターだったり、アーティストだったり、そういう方々か、あるいは、そうした精神を持ったエンジニアです。
澤谷:
最近、技術者出身の社長が増えているのも、そうした理由ではないでしょうか。
今の時代の経営者に向いているのは、経営的な視点を持っている人が技術を身につけるか、逆に、技術を身につけている人が経営的な視点を持つか、そのどちらかだと思うんです。そして、おそらく後者のほうがハードルが低いんだと思います。

未来の技術者よ、大志を抱け、夢を語れ!

井上:
これを読んでいるみなさんには、起業家精神を持つことの重要性をお伝えしたいですね。じつは企業の生産性と強い相関関係があるのは、競争でも、技術でもなく、起業家精神なんです。従業員一人ひとりが起業家のように考え、動く。それが企業にとってもっとも高い生産性を生むんです。このことを頭の片隅に置いて、社会人として活躍していただければ、明るい未来が待っているのではないでしょうか。もちろん私たちも、若いみなさんの起業家精神をできる限りサポートしていきたいと思っています。
澤谷:
これは社員のみなさん、全員に持ってもらいたいものなんですが、とくに若い人たちには大志を持ってもらいたいですね。そして、それを堂々と語ってほしい。マキノさんには若い人を支援する、さまざまなしくみがあるようなので、自分の大志を実現する場としてふさわしいのではないでしょうか。
井上:
ありがとうございます。若いみなさんの大志がいつか花開くように、私も経営者としてできる限りのサポートをしていきたいと思います。
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