パレット搬送システム用ソフトウェア MAS-NXの開発
工場自働化を躍進させる
Webアプリを誕生させた
若き開発者たち
1970年代から日本でいち早く工作機械のFA(自働化)に取り組んできたマキノは、工作機械本体、制御装置、ワーク(工作物)などの搬送システム、各種運用ソフトウェアと、工場全体の自働化をワンストップでサポートする多彩なソリューションを誇る。
その中のひとつ、機械加工工程を把握し、生産を管理するソフトウェア「MAS-A5」は、リリースから15年、市場に合わせて進化を重ね、今も全世界で広く使用されているが、技術的、デザイン的に、その進化にもそろそろ限界が見え始めていた。
そこで持ち上がったのが今回のプロジェクト「MAS-NX」の開発だ。
正式名称「マキノ・アドバンスド・ソフトウェア・ネクストジェネレーション」。
マキノのFA製品では初となるWebアプリとしての構成、生産途中で発生する工具不足や工具摩耗などのリスクを事前通知する新しい生産スケジューリング方式など、これまでにない特長を備えた、まさに次世代と呼べるソフトウェアの開発。
そこには、マキノが将来を期待する若手たちの奮闘があった。
MEMBER
メンバー
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菅 真弓MAYUMI SUGA
開発本部 FAシステム開発部 / 1999年度新卒入社 / 情報システム機械工学科出身
MAS-NXのプロジェクトマネージャーとして開発の指揮を取る。プライベートでは3人の子どもの母。産休・育休・短時間勤務やフレックスタイム制度を利用して仕事との両立を図ってきた。
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玉井 翔太SHOTA TAMAI
開発本部 FAシステム開発部 / 2019年度新卒入社 / 生産システム工学専攻出身
本開発ではフロントエンドとバックエンドの両方を担当。仕様策定からコーディング、検証、コードレビューやメンバーサポートとマルチに活躍。事前調査のため海外長期出張も行った。
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ディキシット アンクルDixit Ankur
開発本部 FAシステム開発部 / 2020年度新卒入社 / 生命体工学研究科出身
開発初期の段階は、Makino Asia(シンガポール)が独自に開発していたWebアプリの情報収集を担当。その後、既存ソフトウェアからのデータ転送コードの開発などに携わった。
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前島 圭汰KEITA MAEJIMA
開発本部 FAシステム開発部 / 2021年度新卒入社 / 機械情報工学科出身
新人研修終了後、本プロジェクトに参画。画面開発や工具寿命予測などの開発に携わった。研修後、自らFAの仕事がしたいと名乗り出たバイタリティーの持ち主。
お客様のニーズと、未来に向けて。
生産工程の根幹を見直す
一大プロジェクトの発足
昨今、工場の自働化においても“情報の見える化”が進んでいる。その中で、今まで採用していた生産スケジューリング方式は、機械工程の状況に応じてその時々に最適な部品を選んで運んでいく効率性が強みである一方、刻々と状況が変化するためオペレーターにはリアルタイムの状況しか提示できないという弱点があった。「MAS-NX」は、その方式を発想から変えつつ生産効率も高めようという、いわばこれからの工場自働化の核となるソフトウェアという位置付けだった。「正直、プレッシャーでした。と同時に、既存のソフトを使うお客様から『スケジュールはわからないのですか?』と質問を受けるようになっていたので、これでお客様によりよい提案ができる!とうれしくなったことも事実です」。2022年4月、プロジェクトマネージャーとして新しい自働化ソフトウェア「MAS-NX」の開発指揮を取ることになった菅は、当時をそう振り返る。
お客様のニーズと時代の流れ、そしてこれまでのソフトのようにリリース後は長く活躍する仕様を鑑みた結果、マキノでは初となるWebアプリとしての開発、そして既存ソフトとは異なるタッチパネルでの操作、様々な工程と状況を分析してわかりやすく表示する見える化機能、またそのための生産スケジューリング方式の刷新など、課題は山のようにあった。その中で、菅が最初に行ったのがメンバーの人選だ。「Webアプリでの実装、タッチパネルでの操作ということを考えると、タブレットを使い慣れた若い人財を中心に構成し、経験値がものをいうロジック部分は中堅にもサポートしてもらうという方針を固めました」
メンバー全員にとって、またとない機会。
各自が役割に集中しながら、
互いをサポート
まず、菅がメインに据えたのは、既存の「MAS-A5」にも精通し、様々な「見える化」ソフトの開発に携わっていた玉井だ。「話を聞いたとき、とてもワクワクしました。既存のMAS-A5は15年以上最前線で活躍しているソフトなので、後継となるソフトもそうなるという確信がありました。そんなソフトウェアの開発に立ち上げから参画できる、自分のつくったソフトウェアの行く先をこれからずっと見ていけるなんて、まずない機会だろうと感じました」。玉井はその英語力を活かし、ひと足早く自社用にWebアプリを開発・運用していたシンガポール子会社のMakino Asiaヘ1ヵ月ほど長期出張。実開発に向けての詳細調査を行った。「入社当時、英語はまったくしゃべれませんでしたが、会社の研修で英会話を身に付けました。アメリカ子会社のMakino Inc.とも1年ほど毎週オンラインでコンタクトを取り、このプロジェクトのための下地づくりをしました。海外の子会社やお客様とコミュニケーションが取れる機会は私にとってとても魅力的でした」と語る。
そして、実開発の前のコンセプトづくりの段階でMakino AsiaやMakino Inc.とオンラインで情報収集を行っていたのが、インド出身のディキシット・アンクル。プロジェクトの戦略を模索することはもちろん、日本語でのコミュニケーションよりも英語が得意な特性を活かす意味での起用だった。ディキシットはプロジェクトメンバーに選ばれたことについて「私のバックグラウンドはコンピュータサイエンスで機械に関する知識は限られていたのですが、このプロジェクトに参加することで自分の成長につながります。機械について学べる一生に一度のチャンスだと興奮しました。簡単ではないことはわかっていましたが、ベストを尽くそうと決意しました」と回想する。実開発においては、加工機や搬送システムなどの稼働状況を一覧表示するダッシュボードの開発にも携わった。
当初は菅と玉井、ディキシットを含む9名でスタートしたプロジェクト。そこに新人研修を終えたばかりの前島が加わったのは、プロジェクトがスタートして4ヵ月後の2022年8月のことだ。「前島さんは新人研修後の配属先を決めるときに、こういうFAの仕事がしたいと直接私に言いに来てくれたのです。ソフト開発がしたいという本人のやる気と、若手を充てたいというこちらの意向が合致して起用しました」と菅。前島本人は「希望どおりの配属で、しかもすぐに大きなプロジェクトに関われるとは思ってもみませんでした。もちろん不安もありましたが、プロジェクトの序盤から携われることは貴重な経験だと思い、心躍りました!」と笑顔を見せる。前島が携わったのは「見える化」のためのUI画面開発と、加工を滞りなく行うための工具リソース管理や工具寿命予測などの開発だった。こうして各自、担当する機能の開発に集中しつつ、メンバー間でサポートし合いながらの作業が進められていった。
満を持して自社工場へ初導入も、
機能不全により一時「撤退」
最初の1年はヒアリングと情報収集、要件定義の策定といった準備期間だったと語る菅。その後、各担当者がそれぞれの設計・開発を進め、時間をかけて机上検証を行い、検証用の機械も使用してテストを実施。そしてプロジェクト発足から約1年4ヵ月経った2023年8月、マキノの厚木事業所内にある工場の搬送システムに初導入することとなった。お客様に納品する工作機械を自社の工作機械でつくっているものづくりのリアルな現場。当然納期があり、そのために機械が24時間フル稼働しているシビアな環境のため、迷惑はかけられない。しかし実際にソフトウェアをインストールしてみると、搬送システムを動かすことができず、なんとか対処してもすぐ止まる、一操作ごとにオペレーターが介入しないとクリアできないといった状況だった。「これではどう転んでも使いものにならない。悪いが一旦引き上げて前のソフトに戻してくれ」。これが、お客様へ納品する製品をつくっている、厳しくも正直な現場の声だった。
落ち込んでいる暇はない。
分析・議論・修正を重ね、
2ヵ月後に再チャレンジ
「通信負荷の問題、多数の操作のタイミングで発生する問題、長時間の連続運転で初めて露見する問題など、実機ならではの問題が複数起きて、自分の想定が甘かったと痛感しました。納期のある中で協力してくれた生産本部の方々にとても申し訳なく、不甲斐ない気持ちでいっぱいでした」。このプロジェクトが消滅する不安もよぎったという玉井は、それでも菅からの鼓舞を受け、再導入に向けて気持ちを立て直した。自身の担当する工具関連のエラーがあった前島も同様。ひとつひとつの問題に対してメンバーともに調査・分析を行い、時にはメンバー同士で集まってホワイトボードの前で議論を重ね、対策・修正を繰り返していった。
一方の菅は「皆の士気を高めることはもちろんですが、不具合の原因究明をいつまでにしようとか、再導入に向けてやるべきことを整理し、道筋をつくることも私の役目でした。口うるさかったと思います。それでも玉井さんをはじめ、若手がついてきてくれたのは、本当にありがたかったですね」と語る。幸い、根幹から見直さなければならない不具合はなく、撤退から2ヵ月後の2023年10月、厚木工場への再チャレンジに漕ぎ着けることができた。緊張の再インストールだったが出だしは上々。現場オペレーターにも笑顔が広がった。「とはいえ、これからもっと機能を盛り込んでいく予定です。MAS-A5のように息の長いソフトウェアにするために、進化を重ねていきます」。当初のリリース目標は2024年3月。途中予期せぬトラブルが発生し目標をクリアできなかったが、それでも2ヵ月遅れの2024年5月、製品版としてリリースすることができた。
プロジェクトを振り返って
それぞれが思うマキノの魅力、面白さ
このプロジェクトでたくさんのことを吸収できたと感じているディキシットは「常に新しい技術を取り入れて発展していこうとするマキノの強みを肌で感じました。一社員としてとても働きがいのある会社だと感じています。外国籍をもつ自分としては、日本語を学びながら働ける環境が整っていることも、とてもありがたいです。今、別のプロジェクトに携わっていますが、このプロジェクトで学んだ技術をしっかり活かして、自分のさらなる成長につなげたいです」と今後の抱負を語ってくれた。
そして今回、Webアプリケーションの画面構成としてよりモダンなUIデザインを確立し、他のメンバーのサポートなどでも活躍した玉井は「改めて機械メーカーでソフトウェアを開発する面白さを感じました。マキノは同じ建物内に工場があり、対象となる実機がすぐそばにあり、それを動かすオペレーターに実際にソフトを試してもらって使用感のレビューをもらえる。そんな恵まれた環境はなかなかないと思います。今回のケースではありませんが、自社のプロダクトに対するソフトウェアなので、場合によっては機械側を変えることもできる。それは機械メーカーならではの柔軟性です。それから、歴史ある企業なのに若手にどんどんチャレンジさせてくれる気風もマキノらしさだと感じています」と振り返る。
「本当にそう思います。自分のような未経験の若手にもこのようなチャンスがある。大学で学んだことが活かせる歓びもありましたし、わからないことは上司や先輩になんでも相談できる雰囲気がある。機械に詳しい同期にもたくさん助けてもらいました」そう語るのは、新人研修後すぐにこのプロジェクトに参画することになった前島だ。「入社以来、玉井さんをお手本にしているのですが、自分も英語を頑張って可能性を広げたいです。マキノは意欲次第で海外でも活躍できる会社ですから」と目を輝かせる。こうして各担当者にたくさんの気づきと経験をもたらす機会となった自働化ソフトウェアの開発は、これで終わりではなく、今後も市場のニーズを取り込みながら進化を続け、開発者たちのスキルとソフトウェアそのものの存在感を高めていくことになるのだ。
※掲載内容は、2024年10月時点での情報です。
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