今回皆さんにお届けする“講義”の目的は、大学生・高専の生徒の皆さんに工作機械業界の面白さとその影響力の大きさを伝えたいという一点にある。工作機械業界は、規模は小さいかも知れないが様々な業界のインフラを間接的に左右するという意味において他の業界の追随を許さない。工作機械業界が作っているのは実は「様々な産業基盤」なのだ。自動車、鉄道、航空・宇宙、エネルギー、医療、食品、農業、建設、電気・電子・半導体などの様々な産業に品質(Quality)を提供していると言っても過言ではない。これは同時に、工作機械業界に身を投じてしまえば、すべての産業の勉強ができることを意味する。用意した13の講義の一部には動画も利用することで、より具体的な説明を試みた。ぜひ「工作機械業界」を堪能していただきたい。
伊東 誼 Ito Yoshimi
昭和15年 横浜市生まれ。昭和37年3月 東京工業大学・理工学部機械工学課程卒業、池貝鉄工株式会社・研究部試作設計課での勤務を経て、39年9月に東京工業大学・助手、59年7月に教授に就任。平成12年3月に退官、現在、東京工業大学・名誉教授。以降、神奈川工科大学・客員教授、日本機械学会・会長、日本工学アカデミー副会長、知的財産高等裁判所・専門委員等を歴任。
総論 幅広く、奥の深い工作機械技術の面白さ
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働きながら国際性のあるマルチタレントのキャリアが自然と身に付く工作機械の仕事
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第4次産業革命と呼ばれる時代を先取りしている工作機械 ? 明るい将来と想定される姿
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3Dプリンターは除去加工を超越して工作機械産業を消滅させるのか?
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どのような材料で工作機械は作られているのか ? 新素材の活用方法は?
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なぜ新幹線は事故を起こさないのか ? 足回りのお医者さんとして活躍している車輪旋盤
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進化するプラネタリー・ギヤリングと歯車加工用工作機械
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T型フォードの残した功罪 ? デファクト・スタンダードが生業となる曲がり歯傘歯車の加工業
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電気自動車の時代を支える工作機械 ? 栄枯盛衰の歴史に新たな一ページか?
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航空機産業にみる工作機械の変革 ? 消え去る仲間と新たに出現した仲間
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ロボットを作る、ロボットになった工作機械
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工作機械のプロでも知らない仲間が活躍 ? 混迷を深めている工作機械の分類体系
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最先端の科学技術でも超越できない熟練の技とは ? 工作機械技術の真髄の泥臭さ
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日本の工作機械メーカの将来性と望まれる工作機械技術者の姿
日本工業規格(JIS)では工作機械を「主として金属の工作物を、切削・研削などによって、または電気 、その他のエネルギーを利用して不要な部分を取り除き、所要の形状に作り上げる機械」と定義しています。時計・テレビから自動車・航空機・ロケットまで、私たちの身の回りで稼働している様々な機械は、工作機械によって作りだされた部品を組み合わせることで実現します。
工作機械には「母性原則(Copying Principle)」が働きます。これは「(工作機械によって作りだされた)機械の精度は工作機械自身の精度を上回ることはない」というものです。一般に、ある機械が±10?(マイクロメートル)の誤差を許容するものであれば、それを作るための工作機械にはその1/10以上の高精度、すなわち±1?未満の運動精度が必要になります。工作機械が「機械を作るための機械=マザーマシン」と呼ばれ、その国の工業力を規定すると言われるのはこのような理由によります。国全体の経済規模に対するインパクトのみならずその品質(Quality)にも大きな影響力を行使しています。
特に最近の工作機械には超高精度と超高速加工が求められるようになってきていると同時に、人工知能技術、すなわち工作機械自身に様々な判断を下す能力をインストールしていくための技術開発が進められています。一方で工作機械技術は石器時代以来の伝統的な技術の積み重ねなくして実現しえなかったものですから、よりいっそう技術者自身の経験知・暗黙知あるいは感性を活かす方向性を改めて発展させていこうという動きも加速しています。
工作機械は顧客の要望に応じた開発が中心になります。そこで工作機械メーカーが獲得した成果が今度は別の顧客からの要望に発展的に転用される、ということが繰り返されるため、工作機械メーカーには様々な技術的蓄積が行われ、これが工作機械業界をユニークな存在にしている大きな理由になっているのです。
特に私たちマキノは、エンジニアの個性と感性を重視しつつ、高精度・高品質を必要とするお客様だけに、最高級のハイエンドマシンを提供する工作機械メーカーとして「クオリティ・ファースト」を追求し続け、航空・宇宙機器・自動車・半導体・ロボット・電子機器・医療(機器)・食品(機械)・美容(機器)・農業(農機)・建設(建機)・エネルギーなどの様々な産業に貢献しています。